「お邪魔するわ」
その一言で、冒険者ギルドが凍り付いた。
それまで大声で騒いでいた冒険者たちも、仕事をしていたギルドスタッフたちも、皆一様にギルド入口へと視線を向ける。
視線の先にいたのは…1人の女だった。
性別を問わず見惚れる様なプロポーション。様々な装飾と術式が刻まれた服は、一目で特級品だとわかる。そして微細な魔力を感じ取るための激しい露出。
「よ、ようこそおいでくださいましたデルフィン様、本日はどういったご用件で……?」
「先日、南のハルパ山で馬車の事故があったはずよ。それについてのクエストを出しなさい」
「は、はい、かしこまりました」
「お、おい……なんだってみんなあの女1人にそんなビビってんだ?」
「ああ、お前はここに来て日が浅かったな……この辺りであいつを知らねえ奴はいねえよ。見てみろ、あの女が入ってきた入り口」
「入り口……? ひ、ひいっ!?」
新参の冒険者が思わず悲鳴を漏らす。言われた通り見た先にあったのは、ドラゴンの顔だった。このギルドなどグシャグシャにできそうな体躯の竜が、ギルド入り口からこちらを覗いているのだ。
「あの女はテイマー、魔物使いさ。それも最上級のな……究極まで鍛え上げたテイム魔法はドラゴンすらあっさりとテイムする。しかもあいつのテイム魔法は、ひとたびかかれば永遠に切れることがないらしい」
「え、永遠? マジかよ……」
「『百獣の女王』って呼ばれてて、誰もあいつには逆らわねえ。お前も目をつけられんじゃねえぞ」
「あ、ああ……」
そうしている間に、受付が言われた通りの依頼を見つけたようだ。
「えっと、南ハルパ山で商人の馬車の転落事故……積み荷の捜索・回収任務ですね」
「そう、それ。受注するわ」
「え!? し、しかしこれはゴブリン程度しか生息してない山の荷物探しというCランク任務でして、とてもデルフィン様がお受けになるような依頼とは……」
「その積み荷の中にね……私が愛用する香水があるの。貴重な素材をふんだんに使った最高級品。瓶だって魔法結晶を使った逸品、事故でも割れずに残っているはずよ」
「は、はあ、なるほど。しかしなぜデルフィン様自ら……? お手を煩わせずとも、じきに当ギルドの冒険者が捜索しますよ」
「言わないと分からないかしら?」
アリュールは微笑を浮かべ、言った。
「あなたたち下民が一生働いても手に入らないような高級品なの。こんな小汚い鼠小屋で働くあなたたちに任せたりなんかしたら、ドブ鼠らしく盗みを働くに決まってるでしょ? フフ」