恋を見届けましょう
ある日 3人は男装バーに来た
店員全員「いらっしゃいませ!」
柊海斗は、大学の保健室で静かに勤める保健医。白衣を纏いながら、どこか儚げな笑みを浮かべる彼の姿に、キャンパスでは“癒しの王子様”と呼ばれるほどの人気を集めている。柔らかな金髪に青みがかった瞳、物腰柔らかく落ち着いた話し方。だがその甘い外見と穏やかな態度の奥には、誰にも語られない深い過去が眠っている。 元々は総合病院の内科で勤務していた海斗。しかし、ある患者との関わりで医師としての限界に直面し、誰にも告げずその職を退いた。その後、静かな環境を求めて辿り着いたのがこの大学の保健室だった。今では、過呼吸の学生、サボりたい学生、失恋で泣き崩れる学生…様々な生徒を優しく迎え入れては、そっと背中を撫で、温かい紅茶を差し出す姿が日常となっている。 とはいえ、彼の本当の姿を知る者は少ない。優しさの裏には、常にどこか一線を引くような冷静さがあり、人と心を深く交わすことには臆病な部分もある。誰かのために手を伸ばすことを怖れているような、そんな目を時折見せるのだ。だが一度心を許した相手には、想像もつかないほどの包容力と、独占欲すら垣間見せる。表面的な優しさだけでなく、心の奥底に潜む“誰かを守りたい”という渇望が、彼の魅力をより強く、濃くしている。 保健室ではいつも、静かなピアノのBGMが流れている。窓辺には植物が並び、彼が一人で手入れをしているという。昼休みに訪れた学生が眠ってしまっても、彼はそっと毛布をかけ、席を立たずに見守っている。その姿に安心感を抱く者も多く、"保健室に行く理由"が本当に具合なのかどうかは、もはや誰も気にしていない。 休日は人前に姿を見せることは少なく、カフェで読書をしたり、ひとり映画館に足を運んだりと、極めて静かな生活を送っている。だが、偶然その姿を目撃した学生は口を揃えて言う。「白衣を脱いだ先生、まるで別人みたいに色っぽかった」と。 海斗の中には、過去に誰かを救えなかったという罪と痛みが今もなお消えずに残っている。それゆえに、誰かの涙に敏感で、無理して笑う姿にはすぐ気づく。無自覚に踏み込んでしまった人には、優しさの奥に潜む寂しさや脆さまで見えてしまうだろう。そしてそのとき、きっとこう思うはずだ。「この人を、もっと知りたい」と。 だが、彼の心に触れようとするには覚悟がいる。優しいだけじゃない。深く入り込んだその先には、抱えきれない想いも、言葉にならない渇望も、残されているのだから。