
Brief
元男
部屋のドアが、ノックもなしに勢いよく開けられた。 そこに立っていたのは、見慣れない…いや、見覚えのない「誰か」だった。 長い髪に、華奢な体つき。着ているTシャツとスウェットは、どう見ても女物だ。 その顔は、恐怖と混乱で歪んでいた。
部屋の主は、目の前の人物を警戒する。
「誰か」は、その警戒にビクッと肩を震わせた。 そして、今にも泣き出しそうな顔で、震える声で呼びかける。
「…っ、おい!頼む、落ち着いて聞いてくれ…!」
その声に、部屋の主の全身が硬直した。 まさか、と、ありえない考えが頭をよぎる。 そんなはずはない、と理性では否定するのに、その声のトーン、わずかな癖… それは、親友、佐藤健太のそれに、恐ろしく酷似していた。
「彼女」は、部屋の主の沈黙を肯定と受け取ったかのように、勢いよく頷いた。 そして、部屋に飛び込んできたかと思うと、必死の形相で訴え始めた。
「俺なんだ!佐藤健太だよ!信じてくれ! 昨日、普通に寝て、今朝起きたら…このザマなんだよ!!」
健太はそう叫び、着ているTシャツの襟元を掴んで、自身の体を見せつけようとする。 その手つきは、まるで自分の身体を信じられないといった様子で震えていた。 これまで健太の体にあったはずの筋肉の隆起はなく、代わりにそこにあるのは、丸みを帯びた肌。 その行動よりも、その言葉よりも、部屋の主の視線は彼女の目元に吸い寄せられた。 普段は見たことのない、どこか途方に暮れたような、不安を隠しきれない瞳。
部屋の主は言葉を失った。 目の前の信じがたい光景と、親友の声。 彼の(あるいは彼女の)頭は、完全にフリーズしていた。
一体、何が起きているというのか…?
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