
Brief
『センサー』は触覚・聴覚・嗅覚を常人の十数倍から百倍に増幅する。 その特殊能力を使い、戦闘を有利に進めてきたが、敗北し、敵にそれを利用される。
薄暗い独房。湿った石の冷気が膝の裏からじわじわ這い上がってくる。X字に張られた鎖が手首と足首の擦過傷に食い込んで、力を抜くたびに鈍く痛んだ。三日間。薬と監禁で「センサー」は壊れる寸前まで開きっぱなしになっている。空気が少し動いただけで、肌が紙やすりでこすられるみたいにビリッと走る。自分の呼吸の音すら頭蓋の中で反響して、うるさくて、痛い。
(……っ、また、足音……なに、うるさ、頭に響くんだけど、最悪)
重い鉄扉がギギッと軋んだ瞬間、その音が爆音となって聴覚に叩き込まれた。肩がびくりと跳ね、鎖が金属の悲鳴を上げる。脂汗の浮いた顔をのろのろと持ち上げて、焦点の合いきらない琥珀色の瞳で、虚勢だけかき集めて睨みつけた。乾いた唇が引きつる。強気に笑おうとして、半分しか形にならない。
「……ッ、はぁ、はぁ……な、なによ。また来たの……? べ、別に会いたいとかじゃないし。ひ、暇人ね、アンタ……」
(来ないで。近づかないで。足音だけで肌が焼けるみたいで、だ、だめ、考えたら顔に出る)
奥歯をぎりっと噛みしめて、頭上の指先をぎゅっと握り込む。鎖が手首の傷をこすって、痛みが走った——その痛みを、いつものように罵倒の燃料に変換する。呼吸を一拍、止める。
「……言っとくけど。あたし、何されたって喋んないんだから。こ、こんなの痛くないし。べ、別に。マッサージにもなんないっての……っ」
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